私は天使なんかじゃない
それぞれの明日
全ての結末が紡がれた。
さあ、それを語ろう。
西海岸最強と呼ばれ、恐れられた傭兵集団ストレンジャーは東海岸の地で壊滅した。
その噂は時間が掛かったものの西海岸に届いたが、リアクションは薄かった。
最強も果てれば骸でしかない。
わずかな間にストレンジャーの名は忘れられ、西海岸の人々は別の話題に興じていた。
あいにく西海岸の人々の興味は最初から、いつ核の冬が来てこの暑さから解放されるのか、カジノの話以外に興味がなかったのだ。
クロムウェル贖罪神父はアトム教団と聖なる光修道院を影で操って証明した。
信仰心など所詮宛にならないと。
それが彼が人生の中で得た教訓だった。
だが世界は彼が思っているよりも実はもっとシンプルだった。
全面核戦争前ならともかく、戦後の今の日々を懸命に生きる人たちにとって宗教など見向きもされないものだということを。
この時代にとって宗教はセレブの道楽。
その程度の認識でしかなかった。
伝説の運び屋はモハビへと帰って行った。
分かたれた人格、失った誇り、本当に倒すべき敵、それら全てを得た旅路だった。
運び屋は笑う。
人生とは分からないものだと。
ディバイドの悲劇は自分の人生を狂わせたのか、それともそれが最初からの運命だったのか、トロイには分からなかったが東海岸に来た意味はあったと考えていた。
悪とワルは違う。
それが彼の生涯の規範となったのだ。
ボルト101からやって来た一団は備蓄用の水を大量に確保して戻ってきた。
凱旋だった。
開放派の象徴である赤毛の冒険者を殺し、外に希望などない、それを証明して主導権を握ろうとしたものの失敗したアラン・マックであったが水の確保によって監督官に次ぐ地位を得た。
監督官アマタはそれを阻むことが出来なかった。
浄水チップは破損し、水の確保が容易でなくなって来ている現状を考えると帰還を拒むことが出来なかった。
発言力の増した閉鎖派を抑える為にアマタは決断を余儀なくされていた。
だがアランの帰還こそがボルトの終わりの始まりだった。
決断が迫られる。
その時は近付いていた。
直接的な恨みはさほどないものの世界を元に戻す為にジェリコは暗躍していた。
赤毛の冒険者の抹殺。
それが目的だ。
パラダイスフォールズの生き残りクローバーと組み、人を集め、画策する。赤毛の冒険者を殺すというのは実のところただの名目でしかない。
少なくともジェリコにとっては。
彼は憎んでいた。
何を?
それは自分自身でも分かっていない。
ただ、この時既に理不尽な、半ば不条理なまでのジェリコの憎しみは世界に向いていた。
Dr.アンナ・ホルトはシークレットボルトから大量のFEVを入手し、キャピタル北部に居を構えた。
傘下にはタロン社残党、レッドアーミー。
そして謎の大佐。
彼女は言う。
どうでもよくなったと。
刹那的なその思想は破壊の衝動のままに周囲に放たれる。
人は理解されるべきなのだ。
共感し合うべきなのだ。
つまり、その方法は……。
キャピタル・ウェイストランドの地下を延びる広大な世界メトロ。
200年の月日を経て再びメトロの人々が地上に歩き出したことに人々は驚愕したのだった。
変化は常に起こっている。
赤毛の冒険者が地中深いボルト101から這い出して来てから変化の勢いは増すばかりだった。
それが世界にとってどう影響するのか、それは誰にも分からない。
だがメトロの人々の助けがやがてエンクレイブの野望を挫く一因となることを、この時誰も知らなかった。
人当たりも良く、親切で知的なDr.マジソン・リーはその姿を消した。
人々はそれを知り落胆し悲しんだ。
結局裏の顔を知っているのはレギュレーターのソノラに留まった。彼女だけがDr.マジソン・リーの嫉妬と執念の情念を知っていた。
だがそれをソノラは誰にも言わなかった。
赤毛の冒険者にも。
それは配慮なのか、甘さなのか、ソノラには未だ判断が出来ていない。
しかしそれもまた人間らしさかと苦笑し、その目は次の悪を探し、まるで猟犬のように鋭かった。
その後Dr.マジソン・リーは世界から姿を消した。
当然、現われることがないのをソノラは知っていたが、誰にも言わなかった。
ビリー・クリールは過去の清算をした。
実際にはそれが叶ったのかどうか自分でも分からなかったし確証もなかったが養女マギーの笑顔を見て、俺は大丈夫だと胸を撫で下ろすのだった。
最初からマギーは知っていた。
騙せているとビリーは思っていたが、実はマギーもまた、知っていることを知らない振りをして騙していた。
嘘の付き合い、ではなく、それは意味のないジェスチャーゲームだった。
ジェスチャーゲームを止め、お互いに言葉を交わした時、わだかまりが消えた。
世間はそれを馴れ合いと言うだろうか?
だが2人はそれでもよかった。
家族になれたのだから。
アンカレッジの戦争から200年の時を経て、この世界に来たベンジャミン・モントゴメリーはギャングを自称する奇妙な青年に面食らった。
そしてこんな世界の為に戦ったのではないと嘆いていた。
青年は言う。
あんたも俺のギャング団だと。
食う為に合わせてはいたがいつしか楽しんでいる自分に気付いた。
この時、自分が1人でないことに気付いたのだった。
例え時代が変わっても人情はある。
彼は救われたのだ。
グレイディッチを壊滅させたDr.レスコは何者かによって殺された。
彼が所持していたであろう研究資料は消えていた。
最後の言葉。
グリゴリの堕天使。
人間に本来与えるべきでなかった知識を与えた為、堕天した天使の総称。
数年後、モハビ・ウェイストランドでファイアーアントが大量発生することとなる。グリゴリの堕天使たちにとってこの世界はシャーレと同じだった。
知識は伝達する。
良くも悪くもだ。
「どうした、レディ・スコルピオン」
「……ああ、ボス」
メガトン。
ゴブ&ノヴァ店内。
毎日ブッチは用心棒をしているわけではなくベンジーと交代でやっているし時に用心棒がいない日も別に珍しくない。そもそも一昔前まではいなかった。とはいえ最近はモリアティが切り盛りし
ていた頃より繁昌しているし街の規模も大きくなった。その為、極力は用心棒を置くようになった。
酒場一階の奥まった場所。
直接はカウンターから席が見えない。
そこに赤毛の女、自称レディ・スコルピオンが酒を飲んでいた。外から帰ってきた非番のブッチが彼女を見て、席に座る。
「どうした?」
「何で?」
「楽しそうに飲んでないからな。何かあったか?」
「自分を偽るのってどう思う?」
「そりゃつまらねぇな」
「あたしは本名すら言っていない。偽っている」
「ああ、そいつは違うな。別に名前名乗ってねぇだけだろ。偽るっていうのは、何というか、こう、違うだろ?」
「何それ?」
「ははは」
「あたしはどうしたらいいんだろうね」
「うん?」
「やるべきことを果たすべきなのか、それとも……」